第5回カルレバーロ奏法実践講座/パルス・トレーニング講座

残すは2回! 76日(日)、5 カルレバーロ奏法実践講座パルス・トレーニング講座 が開催されました。

基礎トレーニングを徹底してやったことのない方は多いと思います。講座に参加して実感するのは、単純な繰り返しの基礎トレーニングでも、何か一つでも具体的な課題を持つことで、時間を忘れて取り組めるほど面白い練習になるということ。

今回も、聴講でも満足できる充実した講座となりました。


【カルレバーロ奏法実践講座】

今回はこれまでにやった左手の総復習。下降スラー、上昇スラー、そしてポジション移動、と左手の動作の全般を練習しました。1フレットと2フレット、次は2フレットと3フレット、というように、基礎中の基礎の動作を一人ひとり各々でひたすら繰り返します。受講生の皆さんが一つひとつの動作に集中してしっかり意識した音を出すので、会場の隅から聴いていると、現代音楽の一作品が演奏されているかのようです。

左手のポイントは、指に頼らないこと、手を自然なアーチ形に保つこと、腕で動かすこと。

下降スラーは 指を ひっかけて弾く、上昇スラーは 指を 叩きつける、ポジション移動は 指を 動かす、ほとんどの皆さんはそう習いませんでしたか?私もずっとそんな風に弾いていたので、最初に谷辺先生に 腕で動かす 左手を教わったときは、腕から手全体を一体として動かす感覚が掴めず、その利点も理解できず、戸惑うばかりでした。ただ、この練習をずっと続けてきてやっと最近になって、こうすることで音が変わり、手・腕の負担が減ることを実感できるようになりました。

さて、その奏法ですが...、文章で説明するのはかなり難しい!実際に先生の手の動きを見ながら教わった方でなければ正確に伝わらないかと思いますが、何とかポイントを抜粋すると次のとおり。

◆力を抜いて腕を下ろしたときの手の形を見てみてください。この自然なアーチ形を維持します。指1本1本を別々に動かそうとせず、アーチ形の手を一つのまとまったブロックのように意識します。

◆手のブロックは、腕を使って、腕から先に次の位置へと移動させます。

◆【下降スラー】 弦に深くひっかけた指を、腕を斜め後方に引くことで弦から外します。指1本を曲げて弾くのではありません。指で指板を掘るように、弦を深くとらえることがポイントです。

◆【上昇スラー】 押さえている指を支点にして手のブロック全体を上に持ち上げ、腕を脱力させて指板に下ろします。指1本を持ち上げて叩き下ろすのではありません。手全体で動かすことで、指板への打撃音も減らすことができます。

◆【ポジション移動】 手のブロック全体を、形を崩さずに、次のポジションに移動させます。指1本だけを寄せたり、開いたりすることがないようにします。

これが実際にどういう動きになるのかは、ぜひ先生の演奏を見て確かめてください。オーケストラの指揮者のような腕の動き、と言ったらよいでしょうか。指だけで弾いた場合と腕から弾いた場合を、先生が模範演奏してくださいましたが、確かに違います。指だけの場合は指板への打撃音が大きくとても気になりますが、腕も使った場合は打撃音が小さい上楽器がきちんと鳴っているようです。

この奏法は、指・手への負担が少ないため、1つのコンサートを弾き通さなければならないプロの方だけでなく、力の弱い女性にも特におすすめだそうですよ。

 

【パルス・トレーニング講座】

黄金分割黄金比」ということばをご存知でしょうか?今回は、黄金比を知ればより自然な表現ができるようになる、というお話と実践でした。

西洋の美術や建築では8:5という比率が良く使われます。この比率を黄金分割、黄金比と言います。ピラミッド、ミロのヴィーナス、パルテノン神殿、モナ・リザなど各部分の比率に黄金比が使われている作品からは、安定感と調和のとれた美しさが感じられます。これは自然の中にもあり、調和がとれて美しいと感じられるものにはこの黄金比の構造が見られます。黄金比があると多くの人が美しいと感じるのです。

黄金比は、音楽にも効果を与えます。8:5の黄金比によって導き出されるポイントを小節、フレーズの中心になるようにしてやると、自然な調和が生まれ、音楽が生き生きとして来ます。8:5は、全体を100とすれば62:38程度、全体を10とすれば6強:4弱ほどの位置です。

カルレバーロ技巧教本2巻中のアルペジオのエチュードを、黄金比を意識しない場合、意識した場合とで先生が弾き比べてくださいました。確かに、黄金比を意識すると単純なエチュードが立体的な作品に聴こえてきます。さらに《禁じられた遊び》ではさらにはっきりとその違いが感じられました。

さらに、黄金比が音楽をいかに支えているかを知るために、今回は≪ブラームス交響曲第3番 第3楽章≫をムラヴィンスキー、ワルター、フルトヴェングラーの3人の名指揮者の演奏で聴き比べました。強いパルスと黄金比による効果が顕著なフルトヴェングラーの演奏からは、自然な音楽の流れと揺らぎが感じられ、同じ曲なのに格別に印象的です。

この黄金比の効果を踏まえ、『リズムの基礎』のなかの4拍子の課題から実践練習です。

黄金比による分割点を4拍子に当てはめると、3拍目の表になります。ここが頂点になるようにエネルギーとテンポを少しずつ高めて行き、頂点を過ぎた後緩めて行きます。小節の中でエネルギーとテンポの揺れがありながらも、小節全体の時間はメトロノーム的イン・テンポの時にかかる時間と同じとなります。

 2拍子は1小節では不安定になりやすいため、2小節をまとめて一つの小節のようにすると4拍子のような安定感が出ます。分割点は、2小節目の頭に持ってきます。

 3拍子では2拍目の裏、8分の6では4拍目が頂点で、そこに向かってエネルギーが凝縮して行くように意識します。

 演奏を始める前には、小節、フレーズのどこに頂点があるのかを意識しなければいけません。そうすることで、今弾いている音だけではなく、小節全体、フレーズ全体を見渡せるようになります。

黄金比を意識してやると、手拍子だけのエチュードが立体的で流れるように聴こえてきます。パルスと黄金比による中心点がはっきりしてくると、ただのリズム練習が立派な作品に変わってしまうんですね!受講生の皆さんは確実に上達されていて、聴講させていただくのも毎回とても楽しみです。

今回は、受講生の 飯野なみ さん の演奏《 レイ・ゲーラ そのあくる日》と、先生の演奏《アルハンブラ宮殿の想い出》も聴けて、とても贅沢な回となりました。

飯野さん、急なリクエストに応えてくださって、ありがとうございました!先生の《アルハンブラ》は、言わずもがな素晴らしいのですが、中低音の三拍子のパルスがトレモロのメロディーを支えて音楽が立体的になっているのが良くわかりました。

次回、8月3日(日)はいよいよ最終回です!