第6回カルレバーロ奏法実践講座/パルス・トレーニング講座

4月より5回にわたって開催されてきたカルレバーロ奏法実践講座パルス・トレーニング講座は6回目の最終回。毎回延長必至の熱のこもった内容に、まるで登山でもしてきたような爽快感と疲労感があります。いよいよラストだと思うと少し淋しい気もします。

【カルレバーロ奏法実践講座】

今回は、脱力体操の復習と右手の総まとめ、右手・左手それぞれの応用エチュードの紹介の盛り沢山の内容となりました。

A.コルトーの弟子で90歳まで現役のピアニストだったタリアフェロが考案したという脱力体操、覚えていますでしょうか。肩と肘、手首の関節の脱力した感覚を知り、柔らかくする体操です。

①前屈して肩から腕をぶらりと垂らして前後左右に揺さぶる。②指を組み身体の前に突き出して回転させる。③手首から先の力を抜いて腕を前に突き出す。等々。

この体操をすると肩凝りも軽減しますので、ギターを弾かない方にもおすすめです。脱力した腕が落ちるという感覚は、左手のポジション移動の基礎になります。

そして、座り方を確認します。

床の下にいるモンスターが自分を吸い込んで飲み込もうとしているのをイメージします。そしてそれに抵抗するように両足を緊張させて下半身を安定させること、がポイント。地球の核が自分を引っ張り込もうとしているとイメージするのも効果的です。

イスには浅く、骨盤を立てるようにして座ります。骨盤を立てると背中の緊張が緩むのがわかります。

ギターの音は右手のタッチと爪の形で決まる、とよく言われますが、そうではありません。身体全体が音と演奏に影響しています。

 

さて、右手の総復習。右手のポイントは、指の根元の関節から動かし「掴む」動きで、楽器に腕の重さを伝えること、でした。指先の肉の部分でしっかり弦を捉え、掴むようにして弾弦します。指先だけで弾くのとは全く違う、深く力強くかつ優しい音となります。

 

時間はすでにオーバーしていますが、カルレバーロ技巧教本の中の有効で、ただし難易度の高いエチュードがいくつも紹介されました。先生の模範演奏は、精巧なテクニックがあるというだけでなく、見事な音色の使い分けとパルスの存在で、テクニックに終始したエチュードが立派な1作品のように感じられます。目標はかなり遠そう...ですが、1つずつ少しずつ頑張るしかありません!

 

カルレバーロ技巧教本には載っていないとして紹介された「聴く」トレーニングが印象的でしたので、簡単にご紹介します。

方法は、例えばド→レ。ドの音が消える直前までその響きを聴き続け、消える瞬間にレをその消え入る響きにつながるような音色と音量で続けます。音が扇形に弧を描いて空間に広がっていくのをイメージします。

音の頭だけしか聴いていない人は多いのです。

「響きを聴き、次の音をイメージして、身体に命令する」このサイクルが重要です。一度心を通った音でなければ、聴衆に音楽は届きません。

「聴衆に届いたものだけが聴衆にとって音楽になります。」谷辺先生はよくおっしゃる言葉です。先生の演奏を聴くと、なるほど、です。

 

【パルス・トレーニング講座】

最終回の今回は、最終回にして初めてギターの演奏が取り上げられました。聴いたのは、ブリーム≪ディアベリ ソナタイ長調≫

4拍子の3拍目がきちんと外に向かって広がっています。3拍目が外に広がることで、立体的で動きが生まれます。また、3拍子でも2拍目で外に広がっていくのがはっきりとわかります。

ブリームの演奏は聴き飽きないとは感じていましたが、なるほどパルスがきちんと伝わって来ていたんですね! 3拍子の速いパッセージでも、3拍子であることが確実に分かります。言わずもがなの名演です。

さて、今回は付点のついた音符とシンコペーションをトレーニングしました。

シンコペーションは、自分のパルスがしっかりできていないと表現できません。パルスと音符のズレ、そこに緊張感とエネルギーを持つことが大切です。1拍目の裏で跳ね返るような反発するような躍動が生まれないといけません。

シンコペーションの躍動感、よく聞きますが、自分でやってみるとなかなかニュアンスが出せませんでした。こうしてきちんとパルスを作り、そのパルスに対して裏拍にあたる音符を意識すると、確信を持ってシンコペーションが作れるようになるのがわかります。解説を聞いた後の受講生のシンコペーションは、解説前のものと随分変わっていました。

8分音符の連続のところで上滑りして走ってしまっていがちです。音符に集中しないで、自分の中のパルスに意識を向けるようにしてください。どんなリズムが来ても揺るがないパルスを作るのがパルス・トレーニングの目的です。

メトロノームに合わせなければ、とどうしても必死になってしまいます。そうすると、メトロノーム、声、手拍子、でごちゃごちゃになってきます。これが、パルスと音楽にきちんとまとまることが目標。こちらも、なかなかの遠いゴールのようです。私もがんばらなくては!

そう言えば、先生はいつもパルスをどうやって掴んでいるんでしょう?

オーケストラの場合指揮者がいて、はじめてリハーサルがはじまりますよね。パルスは身体の内側にあって音楽を支え導いてくれる指揮者のようなものです。譜読みの段階で、まずその曲を内側から支える自分の体の中にしっかり作ります。それからようやく練習が始まります。

具体的にはパルスを口に出しながら、出来るだけ小さな音で演奏してみます。そしてどんな複雑なフレーズでも、口に出しているパルスが揺るがなくなるまで、パルスを深めて行きます。パルスがないところは全く出来なくなるのですぐ分かります。

パルス・トレーニング講座は今期はこれで終わりとなりましたが、テキストはまだ半分も終わっていません。まだまだ物足りない!パルスのトレーニングは、できたつもりになってしまいやすい難しい練習です。次回開催を心待ちにしています!

全12回の講座終了後に何人かの方が打ち上げにも参加してくださいました!皆さんのギターと音楽を熱っぽく語る様子を見て、講座は成功だったのかな、とほっとしました。谷辺先生の情熱が皆さんにも伝わったみたいです。聴き逃した皆さん、またの機会にはぜひ!!