第9回ギター名曲講座

先日からブログ&動画でお知らせしている通り、来週30日(土)にアルポリール・ギタートリオ×佐藤弘和作品集のコンサートがあります。何度かリハを重ねており、準備万端!本番は楽しいコンサートになること間違いなしです!リハの模様も見れるチケット予約ページはコチラ!ぜひお越しください!

そしてギター名曲講座第9回はいよいよ、クラシックギターの本流ともいうべき、古典派の本格的なソナタ作品ばかりを集めたコンサートです。クラシックギターの最も「クラシックらしい」部分を堪能できるプログラムです。今回もリンク先の参考音源を厳選しているので、そちらもぜひどうぞお楽しみください!

★第9回ギター名曲講座
時代の音を聴く Vol.4
「ギター古典派のソナタ」

作曲家の力量を示すことのできるソナタはクラシック音楽で重要な意味を持っていますが、楽器の制約から1人の作曲家が多くのソナタを書くことの少ないギター作品においては、その作曲家の個性を見ることができるという意味でも大きな役割を果たしています。今回は、古典派を代表する2人のギタリストのソナタを見てみましょう。


○マウロ・ジュリアーニ(1781.7.27~1829.5.8)

19世紀初頭のウィーンでギタリストきっての活躍を見せたイタリアのマウロ・ジュリアーニについては、本連載第5回でも2つの室内楽作品をご紹介しました。彼が古典派らしい様式美を巧みに用いてフルートとギターのためのソナタを作っていたことをおわかりいただけたと思います。

ジュリアーニの活動時期は大きく3つに分けることができます。①イタリア国内で活動していた前期(~1806年)、②ウィーンへ行き錚々たる音楽家たちと肩を並べた全盛期(~1819年)、③イタリアへ戻って作品出版を続け、晩年は娘エミリアとともに活動した後期。前期についてはあまり詳しい資料が残っておらず、現在残っているジュリアーニの作品はすべて1806年以後、ウィーンへ移ってから出版されています。ジュリアーニがウィーンで名声を確立するのは早く、移住した翌1807年には、演奏会の模様が音楽雑誌に取り上げられ、大出版社のアルタリアをはじめ各社から次々と作品が出版されました。連載第3回でご紹介したようなギタリスト、ディアベッリやマティーカ、カル、そしてモリトールなどがすでにウィーンで活動していましたが、ジュリアーニの圧倒的な活躍ぶりを見る限り彼は別格として扱われていたということが伺えます。

〈ソナタOp.15〉は1808年7月16日、彼が26歳のときに音楽雑誌『Imprimerie Chimique』に掲載されました。ハ長調4/4拍子の第1楽章アレグロ・スピリート、ト長調2/4拍子の第2楽章アダージョ・コン・グラン・エスプレッシオーネ、再びハ長調で3/8拍子の第3楽章アレグロ・ヴィヴァーチェの3楽章からなり、古典派らしい端正な佇まいをしていますが、随所にジュリアーニの創意工夫が散りばめられています。すぐにわかるのが循環主題の技法でしょう。第2楽章では第1楽章第1主題が、第3楽章でも第1楽章第1主題と第2楽章のモチーフが明らかにそれとわかる形で出現し、作品全体の統一感を強めています。

そしてさらに、この作品はジュリアーニには珍しく非ギター的に、というよりかなりピアノを意識して書かれていることが弾いてみるとわかります。特に低音部で重音を使う第2楽章と第3楽章に顕著で、そのためか一時は第1楽章ばかりが弾かれる状況も長らく見られました。

この作品が「ピアノを意識している」部分はいくつかありますが、1つに伴奏の音型変化があげられます。第1楽章では、第1主題では根音を省略した、第2主題では非和声音を用いた不安定な(浮遊感のある)音型の伴奏によって特徴的づけられています。この2つの音型がそれぞれの"不安定さ"を補い合うと、古典派のピアノ・ソナタで頻出するアルベルティバス(ドソミソ伴奏)になるのですが、曲中でなかなか登場しません。むしろそれを意識しながら、あえてはぐらかしているような印象さえあります。そして、その安定したアルベルティバスが明確に出現するのが、第1、2楽章を回想する第3楽章のグラツィオーソの部分です。快活に進む第3楽章に突如現われるこのグラツィオーソはかなり異質な雰囲気を持っていますが、この部分こそソナタ全体をまとめあげ決定的な充足感をもらす要所として書かれていることが聴き取れるはずです。
(※アルベルティバスについては、この曲と全楽章が同じ調性のモーツァルト〈ピアノ・ソナタK.545〉を聴き比べるのも面白いでしょう)

ジュリアーニがギター独奏のために書いた多楽章のソナタはOp.15が唯一の作品ですが、他に単一楽章でイ長調の〈大序曲Op.61〉(1814年)などでもその才気を垣間見ることができます。オペラのために書かれる序曲は基本的に、ソナタ形式から展開部を省略(またはごく短く)した形式で書かれますが、ベートーヴェンの管弦楽曲〈コリオラン〉に代表されるような19世紀に入ってから徐々に増えていく演奏会用序曲は、充実した展開部と物語性を持ったソナタ形式で書かれます。この〈大序曲Op.61〉も明らかにその影響が強く、展開部では主題操作を含まないながらも華やかかつ表情豊かなギターテクニックが披露され、ジュリアーニらしいヴィルトゥオジティが存分に発揮されています。先の〈ソナタOp.15〉がピアノ的な作品だとすると、こちらは"小さなオーケストラ"さながら管弦楽を模したギター的な作品だと言えます。


フェルナンド・ソル(1778.2.14~1839.7.10)

終の棲家となったパリに加え、マドリッド、ロンドン、モスクワなどヨーロッパ各地で名声を博したスペイン(バルセロナ)出身のギタリスト、フェルナンド・ソルは、まったく性格の異なる2つの多楽章のソナタを残しました。

ソルの活動時期は細かく分けることができますが、ジュリアーニ同様3つに分けるとすると、①スペイン国内でギター作品以外も多数手がけていた前期(~1813年)、②パリ、ロンドン、ロシアなど各地で活躍しバレエ作曲家としても成功した中期(~1826/7年)、③パリに腰を落ち着けアグアドやコストら後輩ギタリストと交流した後期、となるでしょう。そして〈グランド・ソナタ第1番Op.22〉は前期に、〈グランド・ソナタ第2番Op.25〉は中期に作曲されたと考えられています(出版はそれぞれ中期と後期)。ここで留意しなければならないのは、ソルのOp.23までの作品は作曲年とは無関係に番号が付けられていることです。

〈グランド・ソナタ第1番Op.22〉のはっきりした作曲年は判明していませんが、この作品の被献呈者であるスペインの"平和公"マヌエル・デ・ゴドイが1808年に失脚していることから、ある程度推察されています。作風としても、ハイドンなど古典派の巨匠の影響が濃厚な初期のソルらしく仕上がっており、20代の若きソルの意欲が感じられます。明瞭なソナタ形式をとるハ長調4/4拍子の第1楽章アレグロ、重厚な内容を持ったハ短調6/8拍子の第2楽章アダージョ、優雅で軽やかなハ長調3/4拍子の第3楽章メヌエット、ABACA各々が対となるabを持った第4楽章ロンドからなります。ソルの古典派らしい様式美が活かされた佳作と言えるでしょう。

一方の〈グランド・ソナタ第2番Op.25〉はかなり変則的な構成をしており、古典派的な枠組みから離脱していったソル後期の萌芽が感じられる作品です。こちらも作曲年は判然としていませんが、ソルがパリにもどった直後の1827年はじめに出版されたこととその作風を考慮すると、中期の作品と推測できます。序奏風なハ短調4/4拍子の第1楽章アンダンテ・ラルゴ、躍動感の強いハ長調6/8拍子の第2楽章アレグロ・ノン・トロッポ、優美な変奏形式で書かれたハ長調3/8拍子の第3楽章アンダンティーノ・グラツィオーソ、そして親しみやすいハ長調3/4拍子の第4楽章メヌエット。ソナタにしてはあまりにも特異なこの構成のために、ソル作品の中でも全体を見渡すのが困難な部類に入り、全曲が演奏されることは多いとは言えません。

この作品の見方はいくつかありますが、属和音でつながれた第1、2楽章を「序奏付きソナタ」として第1部、3拍子系の第3、4楽章を「メヌエット付き変奏曲」として第2部と考えることができます。その場合、一般のソナタとは逆に、中間の2つの楽章が作品全体の核として配置されていることがわかります。

特に興味深いのは、序奏風な第1楽章も本編らしい第2楽章もともに、変則的なソナタ形式が用いられていることです。主題と調性を追うと両楽章ともあきらかに、2つの主題A→B(第1楽章は平行調、第2楽章は属調)/展開部/主題B(主調)→Aという構造をとっています。第1楽章再現部のAはかなり簡略化されていますが、第2楽章では提示部でBの後にA′(属調)を挟み込み、再現部でもBの後にA′(主調)をもってくることで、自然な流れでこの変則的なソナタ形式を聴かせることに成功しています。前回の名曲講座では「再現部で第2主題の後に第1主題が再現されるギター・ソナタは極めて珍しい」と述べましたが、このソルのソナタはその数少ない例外にして、驚くべき効果を発揮している傑出したギター作品と言えます。

変奏曲とメヌエットの第2部は構造的にはむしろシンプルになっており、ロマンティックで感情的な第1部に対して、洗練された理知的な第2部という対比をなしています。また、終楽章にメヌエットを配置する例はハイドンのクラヴィーア・ソナタなどにいくつか見られ、このソナタにおいては、挑戦的な書法を経てからの"先祖帰り"のように聴くこともできます。古典派のソルらしいこのメヌエットは人気が高く、しばしば単独でも演奏されます。

ソナタを2部構成で作るのは、同時代ではベートーヴェンの〈ピアノ・ソナタ第32番〉(1822年)、さらにあとの時代ではサン=サーンスの〈交響曲第3番オルガン付き〉(1886年)などクラシック音楽を代表するような名作を挙げることができ、一定の効力を持っていることがわかります。また、[情感豊かな第1部]+[形式を重んじた第2部]という構成は、ソナタではありませんが、ソル晩年の傑作である〈悲歌風幻想曲Op.59〉に繋がることになります。

上記2つのソナタ、及び単一楽章の〈ソナタOp.15-2〉はいずれもハ調で書かれた、ギター向きというよりは形式や書法に重きを置いた作品ですが、変則調弦や効果的なテクニックなど楽器の"鳴り"を意識して作られたニ長調の〈グラン・ソロOp.14〉は、前述の〈大序曲Op.61〉と同じように管弦楽的な華やかな響きを備えています。様々な出版社から楽譜が出版されていたり、ソルの朋友であるアグアドも編曲を施していることからも、当時からすでに人気だったことが伺えるでしょう。

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ソルのグランド・ソナタ2曲がいっぺんに演奏されるコンサートなんて、みなさん聴いたことありますか?その上ジュリアーニのソナタOp.15、そして大序曲やグラン・ソロなど超絶技巧の作品までをも一晩で、しかも益田正洋さんの演奏で聴けるなんて......。クラシックギター好きのみなさんには絶対に聴き逃してほしくありません!今すぐこちらからご予約を

さて、その次の第10回/10月25日(土)は一転して、ロック、ジャズ、ボサノヴァなどクラシック以外のジャンルとのクロスオーバー作品を集めたコンサートです。ジミヘン、ジャンゴ、バーデン・パウエル、ウェス・モンゴメリー......彼らのギター音楽がドメニコーニ、ブローウェル、ディアンスなどのコンポーザー・ギタリストたちにどう味付けされていくのか、ぜひ聴いてみてください!

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第11回/11月29日(土)は、角 圭司さんと、台湾のソプラノ歌手の黄 子珊Tzu-Shan Huangさんによるスペイン歌曲のコンサート。黄さんはアメリカのピーボディ音楽院で角さんと同窓で、博士号まで取得されているという才女です!ソル、グラナドス、ファリャ、ロドリーゴなどギター・レパートリーにおいて欠かすことのできないスペイン歌曲をお楽しみいただきます!

そしてついに第12回となる12月20日(土)は、昨年の来日公演でも大いに沸かせてくれたフランスの奇才ローラン・ディアンスの作品を集めたコンサートです!演奏は、ディアンスが教授を務めているパリ音楽院のギター科を、審査員満場一致の首席で卒業生している松尾俊介さん。〈リブラ・ソナチネ〉〈サウダージ第1~3番〉〈トリアエラ〉などディアンスの本格的&人気作品を一挙に演奏していただきますので、ぜひご期待ください!

(編集O)