第3回ギター名曲講座

今週の土曜日、2月22日に2年ぶりとなるギター製作コンクールが開催されます。見学無料ですので、ご興味のある方はぜひお越しください!

そして翌日の23日(日)にはいよいよ、藤元高輝さんによる超重量級のGGサロンコンサートが行われます。プログラムを見て「これは聴くほうも疲れるのでは......」と思った方もいらっしゃるかもしれません。確かに2時間には収まりきらないほどのボリュームですが、藤元さんの鮮烈な演奏を聴いていると本当にあっと言う間です。むしろ短く感じるのではないでしょうか?本格的なギターコンサートを望む方にご満足いただけること間違いなしです!まだ席数に余裕ありますので、注目の若手による前人未踏の挑戦をぜひお聴き逃しなく!プログラムの解説はコチラからどうぞ。

さて、ギター名曲講座第3回は益田正洋さんたちによるコンサート。知られざる古典派ギター作曲家たちの人物像と作品に迫ります。プログラムはたった3曲ですが、いったいどんな内容なのかというと......

★第2回ギター名曲講座

室内楽の夕べ~国別シリーズVol.1
「ウィーン古典派の室内楽」

18世紀末から19世紀初頭、クラシックギター史においては古典派と呼ばれる時代にウィーンで活躍したギタリストと言うと、マウロ・ジュリアーニがまず挙がり、そして彼以外のギタリストがなかなか挙がることがありません。その理由の1つとして、ジュリアーニがギター独奏曲において大変魅力的な作品を多く残したのに対し、他のギタリストが独奏曲よりはギター入りの室内楽で本領を発揮していたことが考えられます。ギター室内楽は現代においてもなかなか注目されにくい分野です。しかし、ハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲などを鑑みればわかるように、古典派の音楽にとって室内楽という分野は非常に大きな意味を持っています。今回はその室内楽で様々な試みをなした古典派のギタリストたちに焦点を当てたいと思います。ソロだけでは見えてこなかった、新たなギター史の一側面が見えてくることでしょう。

レオンハルト・フォン・カル(1767-1815)

現在はイタリア北部、当時はオーストリア領だった南チロルのエッパンに生まれたカルは、ウィーンでギタリストとしてのキャリアを開始し、ジモン・モリトール(1766-1848)とともにギターの古典派としては早い時期から活躍します。

カルはギターに限らず、フルート、ヴァイオリン、チェロ、ピアノなどさまざまな楽器や歌のために作品を書きました。ギター独奏でも〈3つのソナタOp.22〉や〈セレナードOp.23〉などいくつかの作品が見られますが、作品数から言っても内容から言っても、カルの熱意は室内楽に向かっていたと考えられます(150ほどある作品のうち、ギターソロは12しかありません)。楽器を選ばずに演奏のしやすい作品を書き上げられた能力こそがカルの"売り"となり、カルの楽譜は当時さまざまな出版社から出されてヨーロッパ中に出回りました。

2~6種類の楽器の組み合わせで室内楽を書いたカルですが、基本的なヴァイオリン(もしくはフルート)とギター、歌とギターの二重奏以外では、「フルート、ヴィオラ、ギター」の三重奏と「ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ギター」の四重奏が多く見られます。それらのほとんどは4~6楽章の規模で書かれます。

カルはフルート、ヴィオラ、ギターのための作品の多くに〈セレナード〉と名付けています。中でも4楽章で書かれたハ長調の《セレナードOp.66》は、古典派の様式を巧みに取り入れながらも、工夫を凝らして書かれています。溌剌としたソナタ形式の第1楽章アレグロ・モデラート、フルートとギターがトリオでメロディー交代する第2楽章メヌエット、三者が変奏ごとに鮮やかなテクニックをみせる第3楽章変奏曲、締め括りにふさわしい堂々とした第4楽章の行進曲。いずれもシンプルな作りながら、古典派らしい端正な趣を感じさせる佳作です。三者それぞれを楽器の特性に合わせて引き立たせるアンサンブルの妙も聴きどころで、カルの持っていた音楽性を非常にわかりやすい形で凝縮した作品と言えるでしょう。

アントン・ディアベッリ(1781-1858)

今回紹介する3人の中でもっとも著名なのが、作曲家であり、ピアノとギターの教師であり、そして出版業者でもあったディアベッリです。音楽産業の担い手が市民社会へと移行していった古典派の時代には、クレメンティ(1752-1832)やプレイエル(1757-1831)のように音楽家と同時に実業家となり成功する人々が現われます。彼ら先駆者たちの下の世代にあたるディアベッリは、出版業者としてもっとも成功した音楽家の1人です。今日ではベートーヴェンのピアノソロの傑作〈ディアベッリのワルツによる33の変奏曲Op.120〉の名で一般に知られています。

オーストリア・ザルツブルグ近郊のマットゼーで生まれたディアベッリは、少年時代は聖歌隊に属し、後に修道院に入り僧職に就きます。作曲はミヒャエル・ハイドン(有名なハイドンの弟)に師事しました。22歳で僧職を辞してウィーンに向かうと、今度は兄のフランツ・ヨーゼフ・ハイドンに師事し音楽家を目指しました。その後、36歳で出版社カッピ&ディアベッリを、43歳で単独で出版社を立ち上げ、ベートーヴェンやシューベルト、ギターでは同じ年のジュリアーニを始めとして数々の作曲家の作品を世に送り出します。

一般の音楽史では実業家としての側面が強調されがちなディアベッリですが、ギターにおいては作曲家としてもいくつかの功績を残しました。もっとも取り上げられる頻度が多いのは、数々のギターと(フォルテ)ピアノのための作品です。初学者向けのやさしい小品から演奏会向けの作品までありますが、中でも〈華麗なる大ソナタOp.102〉は両方の楽器をよく知る作曲家ならではの本格的な仕上がりです。ギターソロ作品では、ブリームが取り上げて広まった〈ギター・ソナタOp.29〉が有名です。3つのソナタからなるOp.29の、第2番の第3、4楽章と第3番の第1、2楽章を転調して組み合わせたブリームの編曲は、原曲以上の華やかさを発揮して作品を蘇らせました。また、今日では原曲のまま弾いて作品本来の良さを聴かせるギタリストも少なからずいます。

もう1つ忘れてはならない大きな功績が、モーツァルトやベートーヴェン、シューベルトなどの歌曲400曲ほどをギター伴奏用に編曲して出版した『ギターと歌のためのフィロメーレ』シリーズです。もともと家庭音楽の普及を目指して出版社を立ち上げたディアベッリにとって、より音楽を身近なものにするこのような試みこそが本領だったのでしょう。ディアベッリの活動は、身近で家庭的なものが好まれたビーダーマイヤー時代の音楽産業にとって、欠かすことのできない存在となりました。

音楽家としてはハイドンに師事し、実業家としては家庭音楽の普及をめざしたディアベッリにとって、室内楽に一定の比重を置くことは必然だと言えます。ディベッリもカル同様フルート、ヴィオラ、ギターという組み合わせに可能性を見出していたようで、Op.36、Op.65、Op.66、Op.95、Op.105の5曲に「セレナータ」のタイトルを付してこの編成のための作品を書きました。中でも協奏風セレナータOp.105は、6楽章からなる演奏時間20分以上の大作です。序奏風な短いアンダンテ・モデラート、技巧を尽くして華やかに展開されるやや変則的なソナタ形式のアレグロ・モデラート、穏やかで歌謡風なアダージョ、快活なスケルツォと優雅なトリオが対をなし、唐突に深刻なフーガが現われたかと思うと、最後は力強い行進曲で締めくくられます。どこかベートーヴェンの影響を感じさせる、ギターでは珍しい作品です。

ヴェンツェスラウス・トマス・マティーカ(1773-1830)

3人の中で恐らくもっとも知名度が低いのがマティーカでしょう。彼の名はもっぱらシューベルトが書いたフルート、ヴィオラ、チェロ、ギターのための《四重奏曲D.96》のオリジナルの作曲家として知られています。

現在はチェコ、当時はハプスブルグ家ヨーゼフ2世の統治下にあったボヘミア王国に属すホツェニに生まれたマティーカは、音楽の指導を受け続けてはいたものの、プラハ大学で法律を学び法職に付きます。しかしその後、20代後半に差し掛かった1800年にウィーンへ移ると、またたく間に作曲家、ピアノ教師、そしてギタリストとして活躍するようになり、1817年には聖レオポルド教会、1820年には聖ヨーゼフ教会の音楽監督に就任します。

マティーカは作品番号にして33の自作品(番号付きはすべてギター関連)とオペラの編曲作を残しますが、前述の2人に比べるとギターソロの割合が大きく、それらの中にも見るべきものがあるように思います(2013年の9月号~11月号の「添付楽譜」に掲載されていますので、ぜひご覧ください)。しかしやはり、マティーカの作品は後にシューベルトが編曲(チェロを追加)したノットゥルノOp.21を抜きには語れません。

フルート、ヴィオラ、ギターのための《ノットゥルノOp.21》は時の大出版社アルタリアから1807年に出版され、当時もっとも有力であった貴族のエステルハージ家の人物に捧げられました。この作品は前述のディアベッリよりさらに長大で入り組んでいます。古典派らしい端正なソナタ形式の第1楽章アレグロ・モデラートで始まり、2つのトリオをもつ第2楽章メヌエット、フルートとヴィオラの奏でる感傷的なメロディーが印象深い第3楽章レント・パティーティコ、「ジプシー風」と名付けられたトリオとコーダを伴う第4楽章、そして第5楽章は「Madchen, o schlummre noch nicht!(お嬢さん、まだ寝ないのかい!)」のタイトルを持った7つの変奏からなるシュテンチェン(セレナーデ)によって締め括られます。なお、最後の第7変奏は「行進曲風」とあります。多楽章の曲は最後にロンドが置かれることが多いのですが、不思議な一致を見せる彼ら3人の書法は何を意味するのでしょう? 単に流行の形式を取り入れただけではない、ギター作曲家たち独特の意図を感じさせます。

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ギター室内楽、それも古典派の作品だけを扱ったコンサートというのはそうそうありません。そんな貴重なプログラムを、大活躍中の豪華メンバーの演奏で聴くことのできる超贅沢なコンサートです。すでにリハーサルも何度かしておりますがみなさん気合十分!ぜひご期待ください!!ご予約はコチラから。

第4回/4月27日(日)は、スペインもののレパートリーを得意とする井上仁一郎さん。誰もが愛聴/愛奏しているリョベート編の《カタルーニャ民謡集》を全曲演奏していただくほか、プジョールの〈3つのスペイン風小品〉やフォルテアの〈スペイン組曲〉など、まとまった大作を披露していただきます。

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 第5回/5月31日(土)は松尾俊介さんとフルートのyumiさんによるイタリアもののレパートリー。王道のジュリアーニとC=テデスコはもちろん、バロック時代の女性作曲家アンナ・ボンから人気のコンポーザー・ギタリストのドメニコーニまで、イタリアらしい明るいレパートリーを幅広く予定しています!(ちなみに、松尾さんは12月に同シリーズでソロ公演を予定)

第6回/6月28日(土)は現代ギター3月号で表紙を飾ったレオナルド・ブラーボさん。自ら優れたピアノ弾きでもあったポンセ、モンポウ、タンスマンの3人がセゴビアに捧げた作品から、彼ら独特の響きを聴き出したいと思います。「ブラーボさんと言えばタンゴじゃないの?」とお考えの方もいると思います。実際、タンゴを軸にした新譜CDは素晴しい内容ですね。しかし!それだけではないことをこのコンサートでじっくり味わっていただきます!

(編集O)