第1回ギター名曲講座

先日、古川忠義さんの公演が大盛況のうちに終了し、今年最後のGGサロンコンサートが締め括られました。2013年も終わりに近づいてきましたね!

さて、先日のブログで宣言した通り、来月開催される鈴木大介さんのGGサロンコンサートのプログラム・ノートを公開します! 各曲にはナクソス・ミュージック・ライブラリーのリンクも貼ってありますので、ご興味ある方はそちらもぜひお聴きください!

今回はバリオスの人気曲を中心に集めたコンサートとなっておりますが、その心はいかに......。前回同様ブログにしてはやけに長いので(笑)、お時間あるときにまとめてお読みください!


★第1回ギター名曲講座
コンポーザー・ギタリストの世界Vol.1
「アグスティン・バリオスの音楽」


・"雑多な"バリオスの作品群

バリオスの作品群はそれぞれが様々な要素を含んでいるため分類が難しく、またタイトルも個性的なものが多いため、初めて彼の音楽に触れる人には雑多な印象を与えることがあるかもしれません。しかしその「まとまりのなさ」はかえって、後世のギタリストたちが自らの感性に従って自由にバリオス作品を取捨選択できる状況をもたらしました。その結果、誰もが取り上げる「共通の名曲」が形成され、バラエティに富んだバリオスの音楽を凝縮したような様相を呈し、現在では100曲近く出版されている作品群の一端に触れる上で、指針として重要な役割を果たしています。今回はその「共通の名曲」を中心に、バリオスの作品世界に触れてみたいと思います。

・バリオスのワルツ

詩的なタイトルが印象的なバリオス作品にも、ワルツやガヴォット、メヌエットなど舞曲の名を冠したものや、小品としての性格が強いプレリュードやエチュードも多数あります。バリオス以前のコンポーザー・ギタリストと聴き比べて音楽的文脈を探るのなら、まずはこの分野から入ってみるのも良いでしょう。

バリオスが最も得意としたヨーロッパ風な様式の1つは「ワルツ」だと言えます。それまでの古典派・ロマン派ギタリストの多くがアマチュア向けのやさしい小品としてワルツを書いたのに対し、バリオスはコンサート・ピースという意識で積極的にこの形式を用いました。

ワルツ第3番〉、〈第4番〉は「共通の名曲」に数えられるバリオスの定番曲ですが、その他にも〈ワルツ第2番「君の心のほとりに」〉や〈ワルツ「君の面影」〉、〈春のワルツ〉、〈ワルツ・トロピカル〉〈ワルツ・エチュード〉などがあり、いずれも捨てがたい佳作です。ワルツと名付けられていないものでも〈ペピータ〉や〈人形の夢〉のように、明らかにワルツの形式で書かれている作品もあります。それまで単調なリズムや展開に乏しい作品が多かったギターのワルツとは打って変わって、バリオスは変化に富んだ曲想豊かなワルツを、時には序奏をつけて書き上げました。

バリオスのワルツはしばしばショパンのそれに例えられます。確かに〈ワルツ第3番〉の深い抒情性はショパンの〈ワルツOp.64-2〉を、〈ワルツ第4番〉の華やかさは〈華麗なる大円舞曲Op.18〉を思い起こさせます。しかしそれ以上に、ワルツという形式がもつ表現力を、ギターの特性を活かして突き詰めたところにバリオスの偉大さがあります。例えば、同じく序奏付きのワルツである〈ペピータ〉は、中間に南米風なリズムも取り入れて、ワルツに新たな可能性を見出しています。この発想はバリオスならではと言えるでしょう。

・その他のサロン音楽風な作品

ワルツ以外に数多く書いた形式にはメヌエットとガヴォットがあります。メヌエットはバロック風に書かれた擬古的な作品が多く、ガヴォットはロマンティックな響きがする作品が比較的多く見られます。いずれも小さな作品が多いですが、〈マドリガル(ガヴォット)〉のように規模内容ともに充実した作品もあります。

メヌエットと同じくプレリュードにもバロック風な趣きの作品が多く、いずれも規模が小さいながらも、〈プレリュード・ハ短調〉に顕著なように、妥協のない響きを追求した曲ならではの神秘性を感じさせます。エチュード、もしくはエチュード的な性格を帯びた作品の多くも劇的な展開はありませんが、ヴィルトゥオーソ・ピースとして特化した作品が多く、バリオス作品中で独特な存在感を放っています。〈蜜蜂〉などはその典型でしょう。『バリオス作品全集』を録音したフィリップ・ルメーグルは〈6つのプレリュード〉〈12のエチュード〉としてまとめて収録しており、各作品の違いがわかりやすく聴けます。

また、数は多くなくても、マズルカでは〈情熱のマズルカ〉、バルカローレ(舟歌)では〈フリア・フロリダ〉など、どの形式においても「共通の名曲」に入る一級品の名作を残しており、バリオスが優れたコンポーザー・ギタリストであったことを物語っています(ちなみに、この2つは女性に贈った曲でもあります)。

一般的なクラシック音楽の形式ではありませんが、ギター音楽の最大の特徴の1つといえるトレモロ作品でも、バリオスは見事な手腕を発揮します。作品の全体にわたってトレモロ奏法を駆使する作品はレゴンディやタレガなどに先例がありますが、奏法が要求する強い制限ゆえに変化をつけることが難しく、1人のギタリストが多くのトレモロ作品を残すことはありませんでした。そんな中バリオスは、〈森に夢みる〉〈糸紡ぎの娘の歌〉〈沈思(深想)〉〈最後のトレモロ(神の愛に免じて施しを〉という4つのトレモロ曲を、はっきりとした特徴を持たせて書き分けています。趣向を凝らしたこれらの作品が、バリオスのギター音楽の一側面を形作っていると言っても過言ではありません。

・南米の音楽を活かした作品

バリオス音楽のもう1つの大きな特徴と言えるのが南米のリズムや民謡などを取り入れた作品です。前述の「サロン音楽」がヨーロッパのクラシック(ギター)音楽の伝統を踏まえた作品群だとすれば、こちらは20世紀においてギターの新たな地平を切り開くこととなる音楽の先駆けと言えるでしょう。バリオスの後世では、アルゼンチンのユパンキ、ベネズエラのラウロなどをはじめとして、自国の音楽を取り入れて世界的に活躍するコンポーザー・ギタリストが多く現われるようになります。

バリオスが自国の音楽を取り入れた作品としては〈パラグアイ舞曲第1番〉〈同第2番「ハ・シェ・バージェ」〉(※おお、わが祖国)〈同第3番「ロンドン・カラペー」〉(※パラグアイの首都アスンシオンの意)があります。中でも、〈第1番〉は独特な情緒を醸し出す佳作で、バリオス自身もギター二重奏用に編曲するなど気に入っていたようです。

自国のみに止まらず、南米各国の音楽を作品に取り入れたことはバリオス独自の音楽観と言えるでしょう。それは彼が南米各国を渡り歩いた賜物ですが、出会った音楽を吸収する力に目を見張るほかありません。アルゼンチンとチリを題材にした4つの作品〈アコンキーハ(ケーナの調べ)〉〈アイレ・デ・サンバ〉〈コルドバ〉〈クエカ(チリ舞曲)〉からなる《アンデス組曲》、ブラジル舞曲の〈マシーシ〉、ウルグアイ舞曲の〈ペリコン〉など、挙げればきりがありません。

特筆すべきは、ブラジルの民衆的な合奏音楽を題材にしつつ深い情感を綴った〈追憶(郷愁)のショーロ〉で、その国の音楽を表面的でなく心から愛していたことを感じさせます。ちなみに、これは「アメリコ・ピラチニンガの想い出に」と哀悼の曲である旨が記されています。

・バリオスと宗教的なもの

大きな要素ではないものの、バリオスの作品を語る上で欠かせないのが、宗教的なものにインスパイアされた作品です。ソルやタレガの小品もしくは作品の一部にその片鱗を見ることはできますが、ギターという楽器が与えるイメージのためか、バリオスほど堂々と「宗教的な作品」という側面を持たせて成功した作品はごくわずかです。前述したトレモロ曲〈神の愛に免じて施しを〉はその典型と言えるでしょう。

この要素を多分に含む、バリオスの最大の傑作の1つである《大聖堂》は、ウルグアイの首都モンテビデオの教会で聴いたバッハのオルガン曲、そして人々の敬虔な祈りの姿に着想を得て第2、3楽章が書かれたと言われています。その18年後、今度はキューバのハバナの大聖堂に感化されて第1楽章を書き上げました。前述したプレリュードやエチュードに見られるような、バリオス作品の中では特異な位置を占める音楽性が、この作品に結実しているように感じられます。

また、〈クリスマスの歌〉はギターの響きを活かした美しい小品で、これもまた多くのギタリストによって愛奏されています。原題の「ビリャンシーコ」は古くは歌の形式、現在ではクリスマス・キャロルを指すスペイン語で、ホアキン・ニンやホアキン・ロドリーゴなどの作曲家に取り上げられています。

他にも、〈祈り〉〈すべてのための祈り〉〈わが母への祈り〉と「祈り」のつくタイトルの3つの作品、〈告白(ロマンサ)〉などがありますが、いずれも本格的な宗教音楽を踏まえて作られたというわけではなく、あくまでバリオス自身の主観として、特定の宗教に限らずにモチーフとして用いられました。それは先に挙げたサロン音楽や民族音楽のような際立った音楽的特徴を持つものではありませんが、バリオスというコンポーザー・ギタリストのイメージを形作る上で「隠し味」的に作用している、大切な要素だと言えるでしょう。

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いかがだったでしょうか?ご興味持たれた方も、「言葉だけじゃ伝わらないよ!」という方も、1月25日(土)はぜひぜひGGサロンにお越しください!

第2回/2月23日(日)は藤元高輝さん。かつてない超重量級プログラムに挑戦していただきますのでお楽しみに!こちらもチラシがありますので公開します。

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第3回/3月29日(土)はギター・益田正洋さん、フルート・難波 薫さん、ヴィオラ・井上静香さんという超豪華メンバーによる「ウィーン古典派の室内楽」。とっても渋い(しかし古典好きには垂涎ものの!)コンサートです。来月3人揃ってのリハーサルを予定しているので(できれば!)練習風景をご紹介します。

第4回/4月27日(日)は、2013年のデビュー・アルバム『オメナヘス』でも話題になった新進気鋭の井上仁一郎さんに、リョベート編曲による《カタルーニャ民謡集》を全曲演奏していただきます。ぜひご注目ください!

(編集O)