第4回ギター名曲講座

今日からGGサロンでは3日連続でイベントが行われます!

本日27日(木)はメキシコの名手フアン・カルロス・ラグーナのコンサート現代ギター3月号のインタビュー記事ではいろいろお答えいただきました。ナクソス・ミュージック・ライブラリーでも、彼のソロや佐藤紀雄さんとのデュオなどいろいろな音源が聴けますね。今日はあいにくのお天気ですが、きっとそれを吹き飛ばす演奏を聴かせてくれるはず!当日券もありますので、ぜひお越しください!

明日28日(金)はレオナルド・ブラーボさんのインストア・ライブ。同じく3月号で表紙を飾っていただきました。新譜CD『ブエノスアイレスの四季』、お聴きになった方はわかると思いますが、本当に素晴らしい内容ですよね!先着80名様限定ですが、入場無料ですのでぜひ!

明後日29日(土)は、先週先々週とリハーサル風景を配信した益田正洋さん(G)、難波 薫さん(Fl)、井上静香さん(Va)の古典派室内楽のコンサート。イベント・ページにリンクした2つの動画をご覧いただけば、面白いコンサートになること間違いなし!であることがおわかりいただけると思います。プログラムは3曲ですが、いずれも多楽章の大曲なので聴き応えも充分!まだご予約受け付けておりますのでお聴き逃しなく!

さて、ギター名曲講座第4回は井上仁一郎さんによるコンサート。タレガの優れた弟子たち、リョベート、プジョール、フォルテアの作編曲作品の、特にスペイン音楽の魅力をふんだんに活かしたものを中心に味わいます。詳細はというと......

★第2回ギター名曲講座

コンポーザー・ギタリストの世界Vol.2
「タレガの高弟たち~リョベート、プジョール、フォルテア」

「近代ギターの父」として古今東西多くのギタリストから尊敬されているフランシスコ・タレガ。彼が残した功績は数知れませんが、そのうちの重要なものの1つに、後のギター界で大きな影響力を持った優れた弟子を輩出したことが挙げられます。その代表格とも言える3人、リョベート、プジョール、フォルテアは、いずれも自国スペインの音楽を採り入れた味わい深い作品を残しましたが、同時に異なった分野での功績も残しました。今回は、彼らが残した作品と功績を照らし合わせながら、その世界観を探ってみることにしましょう。

ミゲル・リョベート(1878~1938)

3人の中で一番早くタレガに師事したのがリョベートですが、彼はタレガ以後、セゴビア以前のギター演奏家として、世界的に最も著名な存在でした。それはかのマヌエル・デ・ファリャから唯一のギター作品〈ドビュッシー讃歌〉を献呈されていることからも伺えますし、(現在と違い編集ができない)SPレコードに残された音源でもその卓越した技巧と音楽性を聴くことができます。

演奏家として数々の功績を残したリョベートの活動はいくつかの時期に分けることができますが、第1の転換点は初の海外公演であった1904年のパリでのコンサートと翌年からのパリへの移住です。それ以前にも、タレガの下でギターの研鑚に励んだバルセロナ市立音楽院でパブロ・カザルス、リカルド・ビニェス、マリア・バリエントスなどカタルーニャ出身の重要な演奏家たちと同窓ではありましたが、本格的な活動を開始したリョベートがパリでさまざまな芸術家と知り合い、数年にわたって過ごしたのは、後の人生に少なからず影響を及ぼしたことでしょう。その後生涯のうち、ドイツ各地、ベルギー、オランダ、オーストリア、イギリス、イタリア、ハンガリーなどヨーロッパ各国を歴訪することとなります。

第2の転換点は、1910年のアルゼンチン・ブエノスアイレス公演での大成功です。それを足掛かりに中南米各国、そしてボストン、フィラデルフィア、ニューヨークなどアメリカ合衆国各地でも成功を収めました。セゴビアが活躍する以前の段階で、ヨーロッパ大陸とアメリカ大陸の両方でこれほどまでに公演を重ねることのできたリョベートの人気は計り知れません。

非常に優れた演奏家であっただけに、彼の作曲したギター作品はヴィルトゥオーソ風な、ギターの"性能"を存分に発揮したものが多いです。技巧の限りを尽くした〈ソルの主題による変奏曲〉が、今でもコンクールなどで頻繁に弾かれている状況を鑑みればおわかりいただけるでしょう。その他にも〈即興曲「レスプエスタ」〉や〈スケルツォ・ワルツ〉など、難易度の高い華やかなコンサート・ピースが少なくありません。

しかし、多くのギター愛好家にとってより馴染み深いのはむしろ《カタルーニャ民謡集》に代表される、ギターの"音色"を存分に発揮した歌心あふれる小品のほうではないでしょうか? 比較的長い3分ほどの〈先生〉から、1分にも満たない〈うぐいす〉まで愛らしい小品が集められたこの民謡集は、一方でそれぞれの曲がリョベートの音楽性を雄弁に物語っています。

師のタレガと同じように、リョベートは楽譜出版に際して細かに運指をつけました。それを見ると随所に彼の美学を垣間見ることができます。例えば、〈アメリアの遺言〉の冒頭のメロディーを、運指に反して1弦で弾きたいと思う人はまずいないでしょう。その他、スラーやポルタメントの指定を辿るだけでも、リョベートが繊細な表現にこだわった演奏家だったことがわかります。

同時代では例えば、民俗音楽を生涯にわたり蒐集したバルトークの《ルーマニア民俗舞曲》(1915)や、イギリスの伝統的な音楽をあらゆる作品で用い続けたヴォーン・ウィリアムズの《イギリス民謡組曲》(1923)など、自国の音楽を巧みに組み込んだ名作が、それをライフワークとしていた作曲家によって生み出されます。しかし、それらが伝承音楽としてはいささか壮麗に響くのとは対照的に、音楽と楽器とがあまりにも美しく融和したこの《カタルーニャ民謡集》は、クラシックギターが誇る名作と言って差し支えありません。

上記3曲の他に、セゴビアの演奏でも知られる〈聖母の御子〉、名旋律が人気の〈盗賊の歌〉、全編にわたってハーモニックスを用いた〈商人の娘〉、その他〈哀歌〉、〈あととりのリエラ〉、〈王子〉、〈羊飼いの娘〉、〈凍った12月〉、〈糸を紡ぐ娘〉、〈レリダの囚人〉の13曲が、当時の聴衆たちも魅了されたであろうリョベートの抒情的な音楽を聴かせてくれます。

エミリオ・プジョール(1886~1980)

リョベートと深い親交があったプジョールもまた、カタルーニャ民謡〈鳥の歌〉を編曲しています。〈鳥の歌〉は先述したリョベートの同窓、そして偉大なチェリストとして知らぬ者のないパブロ・カザルスの愛奏曲として、世界中で広く知られる民謡となりました。

プジョールも1907年にデビュー・リサイタルを開き、その後1930年代ごろまでヨーロッパ各地、そしてリョベートの紹介を経てアルゼンチンはじめ中南米各国で演奏家として活躍しました。1923年に結婚したフラメンコ・ギタリストの夫人、マティルデ・クエルバスとの二重奏も好評で、名編曲のファリャ〈スペイン舞曲第1番〉の演奏は音源を聴いても非常に活き活きとしています。

しかしやはり、現在プジョールの名を世に知らしめているのは、教育者・研究者としての側面でしょう。1926年にパリ音楽院の音楽百科事典で40頁に及ぶギターの項目を担当したのを皮切りに、ブエノスアイレスでの講義をまとめた『ギターとその歴史』(1930年)、『ギターにおける音色のジレンマ』(1930年)、教則本『ギターの奏法とその原理』(第1巻/1934年~)と次々に出版し、音楽学者としての名声を不動のものとします。そして、今なおその恩恵が大きいのは現代訳譜したビウエラの学術書です。ナルバエスの『デルフィンの6部の譜本』(1945年)に始まり、ムダーラ(1949年)、バルデラーバノ(1965年)の曲集を出版。そのビウエラ音楽の再評価が、現在の豊かなスペイン古楽レパートリーの礎となりました。

1952年のタレガ生誕100年祭では、自作の〈タレガ讃歌〉を演奏し師の伝記の執筆を表明。後に名著『タレガの生涯』(1960年)を書き上げました。その他アマート教本の研究書や、ペドレルに関する小論など、雑誌への寄稿や公演原稿を含めると膨大な著作が挙げられます。

プジョールの作品は、自身も述べている通り(『現代ギター』No.177)、難易度の高いものが多いこともあって現在広く弾かれているとは言い難い状況にあります。ですが、ギターらしい奏法が作品の魅力を際立たせる〈3つのスペイン風小品〉(トナディーリャタンゴグアヒーラ)や〈熊蜂〉の他、敬愛していたファリャのバレエ『恋は魔術師』の〈魔法の輪〉〈鬼火の歌〉などの編曲作、知的な遊び心を感じさせる〈スコティッシュ・マドリレーニョ〉(作者不詳/編曲)など、目を見張る作品は少なくありません。

ダニエル・フォルテア(1878~1953)

プジョールにも劣らないほどのタレガ信奉者だったフォルテアとタレガとの出会いは一風変わったエピソードとして有名ですが(詳しくは『タレガの生涯』参照)、残念ながら彼はリョベートやプジョールのように国外で華々しい演奏活動をすることはありませんでした。また、タレガ作品を録音したSPなどからその演奏力を評価するのは難しいと言わざるを得ません。

主な業績は、マドリッドにビブリオテカ・フォルテアを設立して数々のギター譜を出版したことでしょう。フィリップ・ボーンによると始めは自作品を、後には他の作曲家の作品を手がけ、合計で600以上を世に送り出したというから驚きです。このビブリオテカ・フォルテアから1930年ごろに出版されたタレガの〈ラグリマには、現在私たちが良く知る16小節の後に8小節が書き加えられています。

教育的なやさしい作品が多いとされるフォルテアですが、代表作は自身で録音もしている師タレガへ捧げた〈エレジーOp.15〉と言えるでしょう。まとまった作品としては、スペイン南部の情緒を感じさせる〈スペイン組曲Op.22〉(アンダルシア、ソレア、グラナディーナ)があります。いずれもリョベートやプジョールのように凝った作りではありませんが、それだけにフォルテアの実直な人柄を感じさせる温かみのある作品です。

参考文献
R.Purcell『Miguel LLobet Guitar Works』(Chanterelle)1988
『現代ギター』(No.177、No.273、No.275)「特集:追悼エミリオ・プジョール」、「ギター作曲家列伝」(濱田滋郎)
E.プジョール著/濱田滋郎 訳『タレガの生涯』(現代ギター社)1977
P.Bone『The Guitar & Mandolin』(Schott)1954
CD『タレガと高弟たち、その門下生~「セゴビアとその同時代人たち」第12集』DHR-7996

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リョベートの《カタルーニャ民謡集》全曲をはじめ、プジョールやフォルテアの作品など聴き応え抜群のコンサートです。年々活躍の場を広げている気鋭の井上仁一郎さんの演奏にご期待ください!ご予約はコチラから。

第5回/5月31日(土)は松尾俊介さんとフルートのyumiさんによるコンサート。この組み合わせで定番&名曲のジュリアーニとC=テデスコはもちろん、18世紀の女性作曲家アンナ・ボンから人気のコンポーザー・ギタリストのドメニコーニまで、イタリアの作曲家たちが残してきたフルートとギターのための作品の軌跡を辿ります!

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第6回/6月28日(土)はレオナルド・ブラーボさん。自ら優れたピアノ弾きでもあったポンセ、モンポウ、タンスマンの3人がセゴビアに捧げた作品から、彼ら独特の響きを聴き出したいと思います。前述の通りブラーボさんは素敵なタンゴのアルバムをリリースしたばかりですが、今回はクラシカルなプログラム。ブラーボさんの新たな一面をご堪能いただけます!

第7回/7月26日(土)は山田 岳さんによるバロック・プログラム。「意外な人が意外なプログラムを弾く」シリーズ(!?)第2弾。同じバロックでありながらまったく違った作風の2人の作曲家、ドイツのバッハとフランスのド・ヴィゼーの音楽をお楽しみいただきます。こちらも、山田さんが決して現代音楽だけのスペシャリストではないことをおわかりいただけると思います。ぜひご期待ください!

(編集O)