第3回カルレバーロ奏法実践講座/パルス・トレーニング講座

カルレバーロ奏法実践講座/パルス・トレーニング講座は、5月25日に第3回目が開催されました。

習得にはまだまだ時間がかかりそうですが、奏法の考え方や身体の使い方、パルスがあるという感覚は少しずつ掴めて来ました。

それでは、第3回の様子をお伝えします。

 

【カルレバーロ奏法実践講座】

各回、必ず前回のテーマの復習を行います。今回も、前回のテーマ「左手のポジション移動」の復習から始まりましたが、さて、楽器を構えて弾き出したところ、次の点を注意するよう促されました。

左手の練習だからと言って、左手を注視しないこと。

見るという行為は、聴く感覚を鈍らせます。人間は視覚からの情報に大部分を頼り、優先的に選択しています。見ると聴けないのです。試しに、部屋を真っ暗にして自分のギターの音を聴いてみてください。

 実際に会場を真っ暗にして弾いてみると、ギターの音が大きく聞こえました。

ヨーロッパで出会ったある全盲のギタリストは、誰かの演奏を聴くとその運指まで言い当てました。ポジションや使う指の違いが、音に表れているのだそうです。更には、演奏者の人格やその日の体調までも聴き分けられるということです。人間の耳は使いようによって、そこまでの能力を持つことができるものなのです。

自分の音を集中して聴くことが、良い演奏には不可欠です。

「 自分の音を聴く → 聴き取った音から次の音をイメージする → 次の音をどう弾くか身体に命令する 」

弾弦直後の音からサステインの最後の音色までよく聴き、聴いた音から次の音をイメージしてその音を出そうとすること。こうすることで「聴くこと」と「弾くこと」を結びつけて、自分の音が出せるようになっていきます。

一人ずつ順番に、このプロセスを身につけるためのトレーニングに挑戦してみました。

また、身体のどこかが緊張していると、聴くことができなくなります。ポジション移動の際に、腕や手を必死に動かそうとしないこと。脱力した状態でポジション移動することは、演奏の質を高めることにもつながります。

さて、課題の左手のポジション移動に戻ります。ポイントは、次のとおりです。

◆手は、指1本1本で動かそうとするのではなく、1つのブロックのようにして動かすこと。フレットのないチェロなどの楽器の奏法と同じように。

◆腕から先に次のポジションの位置に移動させること。腕の感覚で移動距離を覚え、目に頼り過ぎないこと。目での確認は必要最小限に。

◆着地が不安定になりやすい3指、4指も、常に指先のベストポジションで完璧に押弦すること。毎回違う位置で押さえていると、曲を演奏する時にも常に凡ミスが出てしまいます。どんなに調子が良いときでも凡ミスがなくならないという人は、練習の仕方に問題があります。

◆「移動の際にノイズを出さない弦からの離し方」 移動の直前に腕を斜め後ろに引き、その重さと圧力を解放するように手のブロック全体をふわっと持ち上げます。(指自体を持ち上げるとノイズが出やすいのです。)

腕は、いつも演奏の先を示す指揮者のように、次の演奏の体勢に先に移動させるのです。こうして腕から手全体を動かすと、左手のポジション移動が滑らかにできるようになります。手の動きにも余裕が生まれ、演奏に音楽的にも自然で滑らかな流れが生まれます。

さて、今回のテーマ「右手」ですが、次回にまとめてご報告しようと思います。右手のキーワードは「掴む」です。

 

【パルス・トレーニング講座】

前回に引き続き、フルトヴェングラー指揮ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 ≪ブラームス 交響曲第3番≫ を聴き、3拍子のパルスをもう一度確認してから、トレーニング開始です。

メトロノームを裏拍にとって3拍子「1、2、3」を作りますが、メトロノームに一つひとつ合わせるようにしてはいけません。1拍目を決めて、残る2拍、3拍はその間を埋めるように入れていきます。

リズムのソルフェージュではないので、音符どおりに手を叩くことに集中してはいけません。

パルスのトレーニングでも大切なのは、下半身の支えです。身体感覚としてパルスを捉えます。イスの背もたれにもたれかかったり、背中を丸めてだらりと座ったりしていては、パルスを作り出すことはできません。

トレーニングを開始してから1ヶ月余り経ちますが、確実に第1回目の様子とは違ってきています。受講生の方々のパルスが流れて行くのが、聴いていて感じられるようになってきました。

さて、今回はアウフタクトの練習もしました。

私たちが演奏しようとしているヨーロッパの音楽は、ヨーロッパの言語に基づいて作られています。アウフタクトというのは、ヨーロッパの言語の特徴で、日本語にはないものです。ですから、日本人はアウフタクトが苦手なのです。

例えば、「マリア」という人名を唱えてみてください。日本語では「マ」も「リ」も「ア」も同じ調子で発音しますが、ヨーロッパでは「マ」は軽く「」にアクセントをおいて「ア」を軽く続けます。この単語の最初の「マ」が、音楽でいうアウフタクトに当たります。

更に例を出せば、「ハッピーバースデイ」の歌を思い起こしてください。日本人は「っぴー ばーすでい とぅー ゆー」と歌ってしまいますが、ヨーロッパの言語では「ハッピー ースデイ トゥー ユー」です。「ハッピー」「トゥー」がアウフタクト、「バースデイ」「ユー」という意味的に重要な単語が1拍目に置かれて強調されます。

このアウフタクトから1拍目への感覚を、手拍子で体現してみます。頭では分かっているはずなのに、なかなか身体で表現できない、かなりの難題です。

第4回は、6月22日(日)。興味のある方は聴講だけでもおすすめします!